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2016年に「日常の制服」というコンセプトでItheというレーベルを始めるきっかけとなった一本のワークパンツがあります。

 

 

 

 

1980年代のフランスで作られたワークパンツ、そのデザインをもとに現代を生きる自分たちが美しいと感じる生地で作り直したこと。

(それはのちにItheからもリリースされることになるのですが)それが今の”見立てる”という活動に繋がっています。

 

”見立て”は茶道など使われることのある言葉で、「ものを本来のあるべき姿ではなく、別のものとして見る」という物の見方を指します。

これまでも今も私たちのそばで当たり前に存在している衣服やプロダクト。

それらは時々の時代や暮らしを象徴するものであったにも関わらず、その価値が認めれられていないものが多くある。

 

Itheはそういったものを「日常の制服」と呼び、いわば”価値がない”とされたものに目をやり、愛でること。

「こう扱えばいいんじゃないか」と見立てること。

ワークウェアやミリタリーウェア、スポーツウェア、スリーピングウェア…こういったユニフォームとして(またはそれに近いかたちで)着られてきたものは安価で粗野なものであるがゆえに普及し、人々の暮らしに寄り添ってきました。

 

そこには”着飾る”という意味は基本的には含まれず、着用者の動きやすいように、危険から身を守るために、あるいは大量に製造しやすいように。

ある仕事を遂行するために衣服の原始的な機能に立ち返ってデザインされたもの。

 

そういった衣服はあまりに様々なデザインで溢れかえってしまった現代からすると、素直で無理がない。

そして、Itheはそこに衣服の本質的な美しさが潜んでいると考えています。

 

それは「衣服の民藝品」とも言えますし、「ヴィンテージになりそこねた古着」とも言えます。

 

 

どうして一本のワークパンツを作り直したのかと言うと、資料として手元にあったワークパンツがそのままの姿で十分に格好良かったからです。

これ以上何かを付け加える必要もないし、削ぎ落とす必要もない。同時に、そうであれば手を加えないことが最適のデザインであると感じたのです。

 

そして、「日常の制服」というコンセプトのもとで活動を続け、2020年からユニフォーム事業を始めました。

これはItheのコレクションには含まれない、特定の目的のために「日常の制服」のデザインを更新し、それを求める個人、または団体のために製作を行うラインです。

 

その発端は「母から譲り受けたオーバーオールが古くなってきたから、同じデザインのものを作りたい」というデザイナーの友人からの依頼でした。

その要望に応えたいと思うのは市井に生きる人々の制服として扱われてきた衣服をサンプリングしてきたItheにとって当然のこと。

 

受け取ったオーバーオールをもとに一部の仕様をさらに使いやすく更新したうえで元々のデザインを最大限に活かし新たなユニフォームをデザインしました。

 

 

その後、様々な団体や個人のユニフォームを手掛けて思うのはItheのコレクションとユニフォームは全く地続きになっている仕事だということ。

ユニフォームからItheのコレクションが生まれ、コレクションから新たなユニフォームが生まれる。

Itheはそれらをファッションの文脈に合わせてパッケージし、提案しています。

 

ユニフォーム事業を始めてから1年と半年ほどが経ち、製作したサンプルもいくらか増えてきました。

初めてItheのコレクションとともにIthe AOYAMAで展示をしてみます。

きっと、イザとユニフォームの親密な関係を読み取っていただけるのではないかと思います。